有名企業に勤めていた女性労働者が、長時間の時間外労働(1か月あたりの時間外労働が100時間を超えていた)に起因して自殺したというニュースや、電力会社に勤める労働者が、長時間の時間外労働(1か月に200時間を超える月もあった)に起因して自殺したというニュースが大きく取り上げられています。
これらの大きな事件が立て続けに起きたこと及び現政権が労働時間法制の改正について強い意欲を示していること等から、今後、労働時間に関する法令の改正が行われることも想定されます。
そうなれば、今後、労働基準監督署をはじめとする監督機関が、労働時間に関し、これまで以上に強く監督権限を行使していくこともあるかもしれません。
このような場合、使用者においては、労働者の労働時間管理をいかに適正に行っていたかが重要になります。
また、監督機関による監督権限の行使の有無にかかわらず、企業にとって大切な労働者を守るという意味においても、労働者の労働時間の管理はとても重要です。
では、労働者の労働時間の適正な把握のために、使用者は、具体的にどのような管理方法をとればよいのでしょうか。
行政通達によると、使用者には、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録することが求められ、そのための方法として、原則として以下のいずれか方法によることが規定されています。
1.使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
2.タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
そして、労働時間の自己申告制はあくまでも例外の方法であり、上記1及び2の方法によることなく、自己申告制を行わざるを得ない場合でも、その方法につき規定を設けています。
労働者の労働時間の管理は使用者の義務である以上、もし、労働者の時間外労働等が問題になった場合でも、使用者は、上記の方法により労働者の労働時間を適正に管理していたことを示す必要があります。
ここで、使用者の中には、就業規則に事業場外みなし制の規定があるから労働時間の把握は厳密に行わなくても大丈夫と考える方がときどきおられます。
しかし、就業規則に事業場外みなし制の規定があるからといって、必ずしも使用者による労働者の実労働時間の把握算定義務が免除される訳ではありません。
事業場外みなし制(労働基準法第38条の2)が適用されるためには、「労働時間を算定し難いとき」に該当する必要があります。
そして、判例は、この「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合をかなり狭く判断しています。
行政解釈では、
1.何人かのグループで事業場外労働に従事し、その中に労働時間を管理する者がいる場合、
2.無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合、
3.事業場で訪問先や帰社時刻等、当日の業務の具体的指示を受けた後に、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場に戻る場合、には、「労働時間を算定し難いとき」には当たらないとされています。
今後、使用者にはこれまでにも増して労働者の労働時間管理が強く求められていくことが想定される中で、
そもそも、どのような場合が労働時間にあたるのか(例えば、着替え時間や休憩時間中の電話対応の時間等が労働時間にあたるか)
どのような場合に事業場外みなし労働制の「労働時間を算定し難い」に当たると考えられるのか
等については、法令、判例、学説等を踏まえた専門的な見地からの判断が必要となる場合もありますので、労働法分野や労務管理に強い弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。
弁護士 平井 孝典
2016.10.22│コラム
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